法的環境のミスマッチ
米国では企業を取り巻く状況が、世界の他の国々と大きく異なっています。米国の司法制度においては、他の先進国に比べて国民一人当たりの訴訟費用が高く、企業は、訴訟を起こされたり、多額の罰金を課せられたりすることに戦々恐々としています。そのために米国では、倫理に適った行動をすることよりも違法行為をしないことの方が重要であり、一般的な原則を打ち出すよりも、細かく規則を定めることが重要視されています。同時に、不必要な訴訟が後を絶ちません。個人が何かにつけこみ、金儲けのチャンスとして訴訟を起こします。賞金稼ぎのようなケースも多く見られ、企業の不正行為を通報する人々にとっても、それが金儲けのチャンスになります。
コールセンターもこのような法的環境に対応しており、全般的な倫理的原則よりも、細かく規定された規則の違反に焦点を合わせています。その結果、個々のケースを単純化し過ぎる傾向が見られ、区分のしにくい複雑なケースに対応できるようになっていません。コールセンターでは、あらかじめ用意された限られたケース区分に応じて処理を進めますが、実際のケースがこれらの区分に完全に当てはまることはほとんどありません。このように、システムが単純化されているにも関わらず、コールセンターのオペレーターは通常、法律やコンプライアンスに関する知識を持っているわけではなく、そのために電話中にミスを犯す危険性があり(区分を間違ったり、的を得ない質問をするなど)、それによりプライバシー法に違反することにもつながりかねません。
労働文化のミスマッチ
米国の労働文化も、他の国とはまったく異なっています。米国では、雇用する側が慎重に考慮することなく、従業員を雇い入れ、そして解雇しています。働く側も1つの会社に永く留まることはなく、他の国におけるほど会社や同僚に対して長期的な忠誠心を持ちません。プライバシーに対する配慮も欠けており、特に個人の金銭的利益が関係する状況では、プライバシーが考慮されなくなります。その結果、通報も日常茶飯事です。従業員は些細なことを含め、躊躇することなくあらゆる事項を通報します。それほどひどくないものの、英国でもこのようなアングロサクソン的傾向が見られます。
一般的なコールセンターの手続きも、このようなかけひきに準じたものになっています。通報を行う従業員は、実際にはその通報内容の「売り手」です。一方、コールセンターもカウンセラーではなく、「買い手」として通報内容と通報者を短時間で効率的に吟味する機関となっており、安心感や信頼感を持てるような通報者への配慮もほとんど行っていません。そのため、通報への対応も「尋問」のようになり、たいてい1回限りの電話連絡しか持たれず、通報者が最初の通報時に語った通報内容がすべてになります。そして、従業員にも雇用主にも何かを省みたり、慎重な考慮の後に回答を行ったり、コンサルテーションを行ったりといったこともありません。従業員にとっては、何度も連絡を取り合い、徐々に信頼を深めながら、後日貴重な追加情報を明かすといったような流れとは程遠いものです。
言語の障壁
米国では一般的に、世界のすべての人々が英語(もしくはスペイン語)を話し、英語で問題を通報することに問題はないものと想定されています。しかしながら、現実の世界はまったく異なります。私たちが実施した調査では、英語以外を母国語とする国々において、85%という大多数の人々が母国語で通報することを望んでいることが明らかになりました。
多国語での対応を謳っているコールセンターも、実際には効果的に対応できていないのが実情です。オペレーターは通常数か国語の主要言語しか話せないため、世界で話される様々な言語に対応するには、通訳を介する必要があります。その結果、通報プロセスが著しく長くなります。まず、通報者は通訳が見つかるまでしばらく待たされることになるため、多くの通報者(推定20%)はここで電話を切ってしまいます。通訳が見つかっても、通報者、通訳、オペレーターの3者間の通話になるため、通話時間が長くなります(30~40分かかることもあります)。さらに、その通訳の質を確かめる手段もありません。 エキスパートでない者による逐次通訳は(その会話内容の記録も残らないため)、かなりの量の情報が失われる可能性が高く、間違った対応が行われる可能性も高まります。また、コールセンターで電話の内容を録音していたとしても、その内容を文書に起こすことは非常に時間と費用がかかる作業となります。