パート2 – 通報者の振舞と報復リスクの管理
この三部構成のブログのパート1では、新しいEU公益通報者保護指令(EU 2019/1937)(「本指令」または「EUWBD」)により変更されたこと、また変わらないことについて確認しました。
North Star Complianceのコンプライアンスのベテラン、Ezekiel Ward氏からの協力を得て執筆されたこの三部構成のブログでは、多国籍企業の観点から、本指令について検討を行います。本指令は、今後数年間で多くの議論と検討が行われることでしょう。
ここでは、本指令により通報者の振舞がどのように変化する可能性があるかを検討します。さらに、個々の通報者および組織自体に対する報復のリスクを組織でどのように管理したらいいかを考えます。
本指令により通報者の振舞が変化するか?
本指令では、通報者の明示的権利および保護について述べていますが、これは書面上では簡単なことです。
しかしながら、通報者が通報を行う場合は、心理的、社会的な障壁を乗り越えることになります。これは簡単なことではないばかりか、権利と保護が約束されていても、通報者は「同僚や友達、家族はどう思うだろうか?」、「権利があるとはいえ、個人的にどのような結果になるのか?」といったことをより懸念しています。
主観性
通報者はどのようなことを考えているのでしょうか?通報者の主観的な確信という問題は、重要な議題です。本指令を通じて、「合理的に確信する」ことや通報の「必要な」ことが言及されています。これは通報者の通報根拠を大きく重視しています。このプロセスの一環では、誠意および成熟度の評価が行われます。
この「合理的確信」は興味深い側面です。たとえば、通報者の保護と組織による名誉棄損訴訟という相互に影響し合う要素について考えてみましょう。通報者が一連の事実を心から信じる場合は、本指令の下で保護される可能性が高くなります。しかしながら、これらの真実は組織にとって非常に有害なことであったり、場合によっては事実無根かもしれません。「合理的確信」があっても、組織の評判を損なった通報者に対して、組織ではどのような損害請求や是正策を求めることができるのでしょうか?
社内で対応を行った方がいいのか?
長年にわたる調査からは、ほとんどの通報者は、問題が内部で処理されることを望んでいることが示されています。そして、本指令により、このようなパターンに変化が見られるかどうかは不明です。外部に通報するのは、あまりにも身のすくむようなことではないしょうか?また、所属組織への忠誠心も残っているのではないでしょうか?本指令によりこの点が変化するかどうかは、今後一貫した高品質の調査を行うことで、確認することができます。
段階を経たエスカレート
通報者が利用できる手段を利用しても満足な結果が得られない場合は、最終的には通報者が公共開示を行うのではないかという懸念もあります。場合によっては、マスメディアに直接訴えることもあるかもしれません。
通報者は最初に内部経路を利用を検討することでしょう。そして、各段階で満足な結果が得られることを望みながらもそれが不可能な場合は外部経路に訴え、それもだめなら公共開示という手段を取ることでしょう。
これは、大きなリスクとは思えません。なぜなら、第一に外部通報を行う通報者の割合は非常に低いためです。二番目には、通報者が公共開示に訴える場合は、組織(内部経路)と機関(外部経路)の両方を既に利用していても、満足の行く回答が得られなかった場合がほとんどでしょう。また、マスメディアはこのような通報者の味方になることでしょうか?これが通報者が乗り越えるべき別の障壁になります。
現実世界における報復リスクへの対応
板挟みの状況
報復は最低の行為で、通報を考える人も報復を恐れて行動に移すことができないケースが数多く見られます。本指令が報復に焦点を合わせているのも当然のことです。
しかし、現実世界でこのように不明瞭なリスクに対応するのは非常に難題です。たとえば、公務員に対する賄賂疑惑の通報が匿名で行われたとします。通報者は名前を名乗っていませんが、それが誰かは推測できる場合もあるでしょう。また、詳細情報を得ようにも、連絡を取ることができなかったらどうでしょうか。コンプライアンス部門の人なら、このように微妙な板挟み状況をよく経験されていることでしょう。つまり、調査をするすべもなければ、通報者に対する報復を防ぐ策もありませんといった状況です。
時間的な制限
CCOとして私は、誠意で行動し、完全に真実を述べていると思われる通報者の中で、報復に遭う可能性があると考えられる人と(可能であれば)よく連絡を取っています。私を含めて私のチームのメンバーも通報者と定期的に話して、報復と思われるような問題に遭っていないかどうかを確認しています。一部のケースに限ってこれを行うのはさして問題ではありませんが、すべてのケースをカバーするのは不可能です。平均的な多国籍企業が従業員千名につき年間3~6件の通報があるような場合は、すべての人とこのような対話を持つことは現実的ではありません。さらに、言語や文化的な障害によりこのような手段のリスクが高まるため、この点についても慎重に検討する必要があります。
さらに、通報者は多くの場合精神的な悩みを抱えています。
私の経験から言うと、通報者は通報内容とはまったく無関係の成績上の問題やその他の不満を抱えていることがよくあります。
報復については、明確な立場を示す必要があります。何を持って報復とするか?どのような報復の兆候についてフォローアップを行うか?このような報復の兆候をチェックしてプロセスが徹底されていることを確認するのに、どのような対策を取ればいいのか?また、報復などの問題に関して人事とコンプライアンス部門がどのように協力すべきか?関連性のない問題を明確に記録に残すために人事ではどのような記録を残しているか?などを検討する必要があります。
このような手順を講じる目的は、運用上の課題とは完全に分けて、取り扱うケースに関する事実に基づく記録を残すことです。システムをスムーズに運用するには、組織全体の管理職からのサポートと、効率的な人事担当者の協力が必要になります。
否定を立証できるか?
ここで特筆に値するのは、EUWBDが通報者に対する報復について、一部のケースでは法廷で争うことを想定していることです(第21(5) 条)そのため、通報者の昇進や昇給が見送られたような場合、組織は通報との因果関係がないことを立証する必要があります。これが独特なのは、組織は「否定を立証」(通報が原因で見送ったのではないこと)することになり、人事記録を利用して、管理職の決定が通報プロセスとは完全に無関係であることを示す必要があることです。
通報者の身元がわからず、通報者を予想する手段がない場合、通報と不利な処遇の間に因果関係がないことを法廷で立証するのはそれだけで十分でしょうか?
次回の予告
次回のブログでは、本指令への準拠においてジェネラルカウンセルおよび最高コンプライアンス責任者(CCO)に求められる臨機応変な対応について検討します。さらに、本指令への具体的な準拠手順についても概要を示します。次週もご期待ください。LinkedInでフォローするか、North Star Complianceにこちらからサブスクライブしてください。次回の記事もお見逃しなく。